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ボードゲーム会魔王の告知ブログです。

「ドイツゲームらしさ」を演出する――キングダムビルダー

ボードゲームの話。今回紹介するのはドミニオンで有名なドナルド・ヴァッカリーノの『キングダムビルダー』。



プレイヤーは領主となってボードに入植コマを配置していく。
領土を拡大し、もっとも偉大な領主を目指すのだわっはっは。



1回の手番で置ける入植コマは基本で3コマ。
手札(1枚しかない)を公開し、それに対応する地形に入植コマを配置していく。
ただし、可能な限り既存の入植コマに隣接するように置かなければいけない。



建物に隣接するヘクスにコマを置くと、得点や追加アクションが行えるタイルをもらえたりする。便利。

それで、勝ち負けはどうやって決めるの? 良い質問です。

まず、マップ上の城。これに隣接したヘクスに入植コマを置くと、1つにつき3点もらえる。これは毎ゲーム共通。

加えて王国カードという要素がある。プレイ開始前に10枚の王国カードから3枚を選んで公開する。そこに書かれた条件を満たすと規程の点数がもらえるのだ。山岳に隣接したヘクスに入植コマを置くと1点とか、まぁ、いろいろある。

プレイ感としては実にあっさりした陣取りゲーム。
深みもあるけど、『レーベンヘルツ』や『それは俺の魚だ!』ほどガチなゲームではない。
「ルールが比較的簡単。その場で説明してすぐ遊べる程度」で「プレイ時間は4人で40分から60分程度」、そして「運と技術の両方が適度に必要」なゲーム。
おお、Wikipediaに書いてある典型的なドイツゲームですな。

ところがこのアメリカ原産のボードゲーム、個々のルールを見ていくとあまりドイツゲームっぽくないような気もしてくる。

例えばさっき説明した王国カード。あれのおかげでキングダムビルダーでは毎回ゲームの目的が変わる。
すぐれたドイツゲームの多くが、明瞭な目的を持っている。だからこそ、インストするときは最初にゲームの目的を説明するのが良いとされているのだけど、このゲームではあえてゲームの目的がランダムに決まるというへんてこなルールを採用している。
このへんてこさはキングダムビルダーのファミリーゲームとしての価値を高めている。
毎回ゲームの目的が異なるためセオリーはなかなか打ち立てにくい。しかし、やりこむことで上達できる要素は間違いなくある。やりこみの要素と初心者の遊びやすさを両立する良いルールだと思う。

もうひとつ。キングダムビルダーには他プレイヤーを直接攻撃する手段が存在しない(基本ゲーム)。そもそも狙って特定プレイヤーを攻撃することは難しい。もちろんインタラクションがないかと言えばそんなことはなく、タイルや城の早い者勝ち競争・入植コマのラインによる競り合い等が自ずと発生するようになっている。
何故そうなるかと言うと、手札(地形)の選択肢がなく、しかもコマの配置にも厳しい縛りがあるからだ。これによって、初心者も上級者も、ストレスの少ない、それでいてコクのあるインタラクションを楽しむことができるというわけだ。

さらにもう一つ。プレイヤーは手札の補充をコマの配置後すぐに行う。いわゆる先ヅモ。少しでもダウンタイムを減らす工夫なのだろうが、気の短い上級者にとっても、これからゲームの世界にはまっていく初心者にとっても、良く作用するだろう。

キングダムビルダーはカルカソンヌやパトリツィア、チケットトゥライドを思い起こさせる、いかにもドイツゲームらしい陣取りゲームだ(ただしアメリカ原産)。
しかし、そのドイツゲームらしさは、ちょこっとずつ“とんがった”ルールによって演出されたものなのだとわたしは思う。