ミスボド行ってきました(2013年4月20日開催)〜駿河の魔王編
序章〜魔王、悩む。
駿河の国の魔王は悩んでいた。
魔王にとって勇者は憎むべき仇敵である。
ゆうしゃのはわらたをくらいつくし、ぜつぼうでせかいをおおいつくし、なにもおもいだせないがとりあえずにんげんをねだやしにすることが、魔王の宿願である。
しかしかながら魔王はフェアプレー精神の持ち主でなければならない。
低レベル勇者に巨大鹿をぶつけるだとか、不意打ちからのクリティカル連発で即全滅だとか、オート戦闘になれた勇者に物理反射トラップだとか、そういうことはあってはならないのでアトラス。
故に魔王は悩んでいた。オペレーション・ダンジョンクエストを発動すべきか、と。
それは、あまりにもシンプルな作戦だった。
たった二層のさして広くもないダンジョンに、無数の財宝を配置と、恐るべき龍の王者を配置する。日没までに宝を回収し、ダンジョンの入り口に戻れば勝ち。そうでなければ龍王が目をさまし、勇者たちを焼き殺す……ただ、それだけである。
だがそれは、あまりにも凶悪な作戦だった。
たった二層のさして広くもないダンジョンは、変幻自在の迷路であり、モンスターの巣であり、トラップの宝庫であった。聞くところによると、冒険者たちは9割の確率で命を落とす試算なのだという。
……これって運ゲーじゃね?
タイルを引く。引いたタイルの指示に従って何かしらカードを引く。カードの指示に従って処理をする。大体やなことが書いてある。勇者の意思が介在する余地はあまりない。介在する余地もなく、死ぬ。
……いやいやいや。致死率9割とか良いから。ゲームバランス悪いだけだから。わたし竜騎士じゃなくて魔王だから。
故に魔王は悩んでいた。運ゲーと名高いこのゲームをネットオークションに出品しようか、しまいか、と。
しかしである。たった数回遊んだだけで手放すというのもどうだろう。大魔王バーンは幾たびもの失敗にも関わらず魔王ハドラーを許したという。寛容さは魔王にとって、美徳なのだ。
……わかった。もう一回だけ。もう一回だけ遊んだらネットオークションに出品しよう! もっとも、ゲーム会に持ち込んでも誰も遊んでくれないだろうけどさ。
かくして魔王三十×歳はボードゲーム会「ミスボド」〜殺人喜劇の13人にダンジョンクエストを持ち込んだのであった。
第一章〜勇者、集う。
ミスボド当日――ドイツ旅行を楽しんだ魔王がメイン会場に戻ってくると、勇者双六小僧に話かけられた。「ダンジョンクエストの卓を立てるって聞いたんですが」
……え? 遊んでくれるんですか?
魔王、感激。しかしさすがに1対1でやるというのも寂しすぎる。
早速勇者を募集してみることに。
「クソゲーやる人いませんかー」
「クソゲーと聞いてきました!」
名乗りをあげたのは勇者Pecopon。まさに勇者である。
さらに近くにいた勇者にったのひとにも「どうですか?」と声をかける。にったのひとは大体どういうゲームか知っていたらしく、目を伏せながら「……わかりました」。さらにカードゲームNeuで手札を0枚まで減らした伝説の勇者珠洲が加わり、まさかのフルメンバー集結! 魔王、超感激。
再び別室に戻り、インストを開始する魔王。
「これが罠の部屋です。高確率でよくないことが起きます」
「これが底なしの穴です。幸運判定に失敗すると死にます」
「これがドラゴンの部屋です。ドラゴンが起きなければ財宝ゲットです。起きたらどうなるか、まぁみなさん大体おわかりですよね」
恐れを知らない勇者たちは龍王のダンジョンの過酷さを聞いてもにやにや笑うばかりで少しも怯んだ様子を見せない。フェアプレイを好む魔王が「一応カードごと内訳をチェックしても良いんですが……」と言っても「このまま始めましょう」と即答する。
……恐れを知らぬものたち! 良いだろう。我がダンジョンでその命、燃やし尽くすがよい!(クワッ)
第二章〜勇者、潜る。
スタートプレイヤーは勇者Pecopon、またの名を騎士・ヒューゴー。
小部屋、回廊と引いて滑り出しは順調だったが、鈍重さが災いし障害物フロア(敏捷判定に成功しなければ先に行けない)に苦労する。
続く勇者珠洲、またの名をレンジャー・リンデル。
サイコロによる判定を1つだけ振りなおせる能力は強いのだが、何故かサイコロ判定とあまり関係ないモンスターとの遭遇イベントばかり起き、スケルトンと踊ることに。
勇者双六小僧、またの名をブラザー・ゲーリン。
滑り出しから罠タイル→振り子の罠(極悪な即死イベント)を引き、あわや開始数ターンで死亡? という展開にむしろ魔王が焦る。ゲーリンの特殊能力(体力1点を失う代わりに判定の難易度を3下げる)を使い振り子の罠は避けたものの、タイル運に恵まれず袋小路に入って出られなくなってしまう。
勇者にったのひと、またの名を森のひと・タチアナ。
某ディセント会においてサイコロの神に愛されていることで知られる勇者に、タイル運も味方する。障害物フロアや蜘蛛の巣のフロア(筋力判定)を難なく超えて、龍王の部屋に迫っていく。やはり本命はこのひとか?!
といった具合に全員が全員順風満帆というわけではないものの、中盤までは脱落者が一人もでない展開。うち何人かは略奪品(財宝)をゲットし、いつでも帰還できる状況で「さすがに9割死ぬってのは嘘なんじゃないかなあ」といった楽観論まで出始める始末。
――油断、慢心。それこそがこのダンジョンでもっとも恐るべき敵だということを、彼らはまだ知らない。
第三章〜勇者、散る。
「あ」
誰かが思わず声をあげた。
スケルトン軍団の包囲網を抜けて竜王の部屋のすぐそばまで接近した勇者珠洲が、底なしの穴タイルを引いたのだ。
ここまできて死にたくはない! 勇者珠洲は底なしの穴を飛び越えようと向こう岸へのジャンプを試みる。勇者珠洲(リンデル)の能力は平均的で、敏捷値は低くない。なおかつ、サイコロを振りなおす能力もある! 誓って言うが、決して分の悪い賭けではない。分の悪い賭けではないはずだった。
憐れ勇者珠洲は底なしの穴に飲み込まれ、最初の犠牲となった。
「クソゲーだこれー!!」
貴見の通りと存じます。
続いて勇者双六小僧。袋小路でカタコンベへの入り口を見つけ、地下に脱出したところまでは良かったのだが、そこはまるでモンスターの巣。
次々と現れるモンスターたちの襲撃により満身創痍となり、最後はヴァンパイアに噛みつかれて死亡。
ああ、なんということだ。またも勇者が運ゲーの犠牲になってしまったのだ。
魔王は若干申し訳ない気持ちになりながら二人の勇者に「この後結構長そうなんで、ほかにやりたいゲームがあれば先に解散していただいても構いませんよ」と提案。しかし!
「ここまできたら、見届けますよ。最期までね」
「そう、ですね」
……最後まで、いてくれるんですか? 魔王、三度感激。
「死ねー、お前らもとっとと死ねー」
……ああ、はい。最“期”まで見届けるんですね。わかります。
序盤スケルトンに襲われまくった勇者珠洲が、自身スケルトンになってしまった瞬間である。
第四章〜勇者、凡て斃る。
ねんがんの財宝を手に入れたぞ!
終始タイル運に恵まれていた勇者にったのひとが、ついに龍王の部屋で財宝をゲットする。しかし、日没までもうあまり時間がない。最速で脱出しなければ龍王のブレスで焼き殺されてしまう!
『回廊の回転』イベントや、回転床タイルのせいでスタート地点に戻ることは困難な状況。それ故に勇者は他プレイヤーのスタート地点を目指して未開のフロアへと歩を進める!
「行き止まりです」
「あれ……? これ、どう頑張っても戻れなくないですか?」
勇者にったのひと、龍王の部屋で多くの財宝を得るも、ラストターンまでに帰還できないことが確定。
ここに至り最後の希望・勇者Pecoponは龍王の部屋に行くことを諦め、わずかな略奪品だけを持って帰還しようとする。だが、龍王のダンジョンは無慈悲だった。まず松明の火が消え、さらに落石まで発生(どちらも判定に成功するまで移動不可といういやらしいイベント!)。スタート地点まであと一歩の地点で足止めを食らい、最後は目覚めた龍王のブレスによりにったのひと共々消し炭と化したのであった。
ざんねん、ゆうしゃたちのぼうけんはここでおわってしまった!
終章〜魔王、悩む。
……これは運ゲーではない。運だ。
魔王は確信している。
末吉と凶と大凶だけが入ったおみくじを死に至るまで引き続ける。それがダンジョンクソゲーエストの本質なのだと。
……こんなものはゲームですらない。こんなものがゲームであって良いはずがない。
しかし、魔王の確信は揺らいでいる。
「まさにクソゲーでした!」
「噂通りの死にゲーでした!」
「このゲームだけで百回ぐらい『ひどい!』って言った気がします!」
罵倒する冒険者たちだが、その表情に後悔の色はない。
何かをやり遂げたという達成感すら見て取れる、誇らしげな表情である。
故に、魔王はわからなくなってしまった。
クソゲーとは。いや、そもそもゲームとは一体何なのだろう、と。
ただひとつ、魔王にわかっていることがあるとするなら、今はまだダンジョンクエストをネットオークションに出品する時期ではないということだけだった。
<了>
一緒に遊んでくださったみなさん、ありがとうございました!
今後も要望があれば(あるのか?)喜んで持って行きますのでよろしくお願いします>ミスボド参加者各位